暗い廊下

「人生の最終段階は住み慣れた自宅で迎えたい」と望む高齢者は多い。厚労省の調査によれば、自宅で最期を迎えたいと希望する人は6割以上にのぼる​。しかし実際には、自宅で亡くなる人の割合は依然として低い。2021年の人口動態統計によると、自宅で最期を迎えた人は全体の17%に過ぎず、約66%が病院で亡くなっている​。自宅看取りを望んでも、急変時の対応や介護体制への不安から病院での看取りを選択せざるを得ないケースが多いのが現状だ。この「自宅で看取りたい」という本人の希望と現実とのギャップは、超高齢社会における大きな課題となっている。

人々が病院で最期を迎える背景には、医療への安心感や緊急時の対応力などが挙げられる。特に高度な医療管理が必要な場合や、痛みの緩和ケアなど専門的ケアが望ましい場合、病院やホスピスに入院する選択が取られやすい。一方で「最期ぐらい自宅で家族と穏やかに過ごしたい」という願いは根強く、自宅看取りを実現するための在宅医療・介護体制の整備が求められている。24時間対応の訪問看護や往診が受けられる在宅療養環境が整えば、自宅でも安心して看取りケアを受けることが可能となる。実際、コロナ禍以降は病院での面会制限もあって自宅で最期を迎える人が増加しつつあり、2021年には在宅死の割合が17.2%と過去より上昇したとの報告もある​。

自宅での看取りを支えるには、医師や看護師、介護士ら多職種が連携する在宅緩和ケアの仕組みが重要だ。家族だけで看取る負担を軽減するため、往診専門のクリニックや訪問看護ステーション、24時間対応のケアマネジャー体制の整備が各地で進められている。また、入院先から自宅へスムーズに移行するための退院調整や、在宅医療への補助制度の拡充も欠かせない。さらに、本人と家族が事前に終末期医療・ケアについて十分に話し合い、意思決定を共有しておくこと(いわゆる「人生会議」)が、自宅看取り実現の鍵を握る。本人の希望を明確にしておくことで、いざという時に家族が迷わず適切なケアを選択できるからだ。

とはいえ、自宅で最期を迎えることが必ずしも最善とは限らない。大切なのは、本人が望む場所・方法で尊厳ある最期を迎えられるよう、選択肢を増やし支えることである。病院、施設、自宅 — それぞれに長所短所があり、状況に応じた柔軟な対応が必要だ。医療・介護従事者や地域の支援者が連携し、本人と家族の意向を尊重した看取りが実現できるよう、「わかりやすく役に立つ」情報提供と体制整備を進めていくことが求められている。

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