高齢の家族の介護が必要になり、やむなく仕事を辞める人が後を絶たない。家族の介護や看護を理由に離職する人は年間10万人を超えると推計され、企業で働く世代にとって「介護離職」は他人事ではない問題となっている。特に40~50代で親の介護と仕事が両立できなくなるケースが多く、収入を断たれることで家計が苦しくなったり、キャリアが中断され再就職が難しくなるといったリスクを伴う。労働力不足の中、企業側にとっても貴重な人材を失う損失は大きく、介護離職は個人と社会双方にとって大きな課題である。
現行の育児・介護休業法では、家族1人につき通算93日まで(最大3回に分割可)の介護休業を取得できる制度がある。しかし、この制度自体が十分知られていなかったり、収入減少などを懸念して取得をためらう人も多いとされる。また、93日で介護が終わるケースばかりではなく、長期に及ぶ介護では短期の休業では不十分との指摘もある。結果として「いっそ退職して介護に専念しよう」と追い込まれてしまう人が少なくない。介護離職者のうち約13%は要介護状態になった家族を「すぐに」介護するため離職したとの調査もあり、急な介護発生に備えた事前の準備や相談が十分でない実態が浮かび上がっている。
政府や企業も介護離職を防ぐための対策を強化し始めている。厚生労働省は企業に対し、従業員が家族の介護問題に直面した際に制度の周知や意思確認を行い、働きながら介護を続けられるよう柔軟な勤務制度の整備を促している。例えばテレワークや時差出勤、短時間勤務や在宅勤務の選択肢を設けたり、有給休暇を時間単位で取得できるようにする企業も増えつつある。また、介護費用を補助する社内制度や、従業員向けに介護相談窓口を設ける取り組みも見られる。仕事と介護の両立に成功している人は、市区町村の介護相談サービスやケアマネジャーと連携し、ショートステイやデイサービスなど介護保険サービスを積極的に利用している。公的支援を上手に使うことで、負担を一人で抱え込まずに済む場合が多い。
介護離職を防ぐには、本人と家族、職場の三者が早めに話し合い、働きながら介護する具体策を検討することが大切だ。仕事を辞めてしまう前に、地域包括支援センターなどで情報収集し利用可能なサービスを把握しておくと選択肢が広がる。家族の介護と仕事の両立は簡単ではないが、周囲の理解と支援があれば乗り越えられるケースも多い。キャリアと家庭の両面で無理をしすぎず、適切に助けを借りながら、「わかりやすく役に立つ」支援制度を最大限活用していくことが求められている。