日本の介護業界で人手不足が深刻さを増している。厚生労働省によると、2025年には約32万人もの介護職員が不足すると予測されている​。高齢化による需要増に対し、介護職への就職者が追いつかない状況が続いており、このままでは「団塊の世代」が後期高齢者となる2025年に介護現場がパンクしかねないとの危機感が広がっている。この「2025年問題」は、介護保険制度創設以来最大の試緊といっても過言ではない。

人材不足の指標は数字にも表れている。介護分野の有効求人倍率(求人に対する求職者の比率)は直近で約3.7倍と、全産業平均(約1.1倍)を大きく上回っている​。常に求人が人員を大幅に上回る売り手市場で、慢性的な人手不足が常態化しているのだ。足りない人手を埋め合わせるために一人当たりの業務負担が増え、離職者が出てさらに人手不足が悪化するという負のスパイラルも指摘される​。現に近年は介護職員の離職率は改善傾向にあるものの、人材不足そのものは解消されておらず、現場の負担感は依然大きいという。

人材不足への対策として、国や業界団体は様々な手を打ち始めている。まず挙げられるのが処遇改善、すなわち介護職員の賃金引き上げだ。介護の仕事は重労働の割に賃金水準が低いとの指摘があり、他産業との差を埋めるべく政府は介護職員処遇改善加算などにより給与アップを図っている​。近年、介護職の平均賃金はわずかながら上昇傾向にあるが、依然として全産業平均を下回る水準であり、更なる改善が求められている。

次に、テクノロジーの活用も期待される。重い利用者を抱えて移乗する作業や見守り業務など、人手に頼っていたケアの一部を介護ロボットやICT(情報通信技術)で補完する取り組みが広がりつつある。例えば、移乗支援のロボットスーツや、センサー付き見守りシステムにより夜間の巡視負担を軽減する技術が現場導入されている。また業務記録をタブレットで簡便に入力できるシステムも普及し、事務負担の軽減に役立っている。政府も介護ロボットの開発・導入を重点施策に掲げ、補助金などで普及を後押ししている(※詳細は後述)​。テクノロジーの導入は介護職員の身体的・精神的負荷を減らし、離職防止にもつながると期待される。

さらに、外国人材の活用も重要な柱だ。既に多くの外国人介護士が国内の介護施設で働いており、2024年末時点で5万人以上が介護現場を支えている​。技能実習生や特定技能、EPA(経済連携協定)介護福祉士候補など多様なルートで来日した人材が戦力となっている。政府は受け入れ枠の拡大や試験制度の整備を進め、一定水準の日本語能力と介護スキルを備えた外国人が円滑に就労できる環境を整えつつある。2025年4月からは外国人による訪問介護も解禁され(前述のとおり)、在宅分野でも人材確保が図られる見通しだ​。ただし言葉の壁や文化の違いへの配慮は必要であり、日本人スタッフとの協働体制強化がカギとなる。

このほか、潜在的な人材の掘り起こしにも力が注がれている。例えば介護離職した人の再就職支援や、子育てを終えた主婦層・定年退職後の高齢者などの参入促進だ。介護職は他業種からの転職も歓迎されており、未経験者向けの研修制度や資格取得支援も拡充されている。最近では定年を延長してベテラン職員が長く働けるようにする施設も増えている。

「2025年問題」が目前に迫る中、介護現場を支える人材基盤の強化は喫緊の課題である。幸い、近年は介護職のやりがいに着目しキャリアとして選ぶ若者も徐々に増えつつある。利用者とのふれあいや社会貢献感を魅力に感じ、介護業界に飛び込む人も出てきた。国としても介護の魅力発信や資格取得支援などに取り組んでおり、人材確保策は待ったなしだ。

高齢者が安心して暮らせる社会を維持するためには、介護の担い手をいかに確保するかが鍵となる。待遇改善と業務効率化、国内人材育成と外国人材活用という複数の施策を総合的に講じ、人材不足の解消に向けた取り組みを加速させていく必要がある。2025年以降の超高齢社会に備え、介護現場の体質強化と働きやすい環境づくりが今まさに求められている。

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