在宅で高齢者を介護する家族には大きな精神的・肉体的負担がのしかかる。要介護者と同居して主に介護を担うのは約7割が女性であり、妻が夫を、娘(嫁)が親を介護するケースが多い。日々の介護は終わりが見えにくく、慢性的な疲労や睡眠不足、社会的孤立からストレスを抱える家族介護者は少なくない。実際、家族介護者の大半が悩みやストレスを抱えているとの調査結果もあり、介護うつに陥ったり、時には介護される側への虐待や心中といった痛ましい事件につながるケースも報じられている。そこまで至らなくとも、介護に追われ自分の生活が犠牲になる「介護疲れ」に苦しむ家族は多い。
介護をめぐって家族内で摩擦が生じることもある。兄弟姉妹がいる場合、本来は協力して親の介護に当たるのが望ましいが、現実には誰か一人に負担が集中し「なぜ自分ばかり」と不満が募るケースが多い。遠方に住むきょうだいほど介護の大変さを実感しにくく、世話をしていない者ほど口出しだけしてくるといった軋轢が生まれがちだ。場合によっては介護方針や費用負担を巡って兄弟間に深刻な不和が生じ、親の介護そのものに悪影響が及ぶこともある。また、介護に専念するあまり離職したり自分の家庭がおろそかになることで、配偶者や子どもとの関係に亀裂が入る例も見られる。介護は家族の絆を深める面もある一方で、その重圧が家族関係を壊してしまう危険もはらんでいる。
こうした家族介護の負担を軽減するには、介護サービスや周囲の支援を積極的に活用することが不可欠だ。一人で抱え込まず、デイサービスや訪問介護、ショートステイなど公的サービスを組み合わせれば、介護者が休息を取る時間を確保できる。兄弟姉妹間では役割分担を話し合い、介護に直接携われない人も金銭面や見守り面で協力するなど、お互い歩み寄ることが大切だ。遠方に住む家族も定期的に様子を見に来たり電話で労いの言葉を掛けるだけでも、介護者の精神的負担は軽減されるだろう。また、市区町村の家族介護教室や介護者交流会に参加し、同じ立場の人の経験談や専門家のアドバイスを得ることも有益だ。
介護する家族自身の心身の健康が維持されてこそ、質の良い介護を継続できる。「自分が倒れたら元も子もない」という意識で、周囲に頼れる部分は遠慮なく頼むことが大事である。家族だけで解決が難しい場合は、地域包括支援センターなどに相談して第三者を交えた調整を図ることも検討したい。介護は家族だけでなく社会全体で支える時代であり、介護者が孤立せず安心してケアを続けられる環境づくりが求められている。