高齢になると食が細くなり、栄養不足に陥りがちである。実際、65歳以上の高齢者で低栄養状態(BMI20以下)の人の割合は、男性約12%、女性22%以上にのぼる​とのデータもある。高齢者の低栄養の背景には、味覚・嗅覚の低下や噛む・飲み込む機能の衰えといった身体的要因のほか、うつ傾向や認知症など精神的要因、「孤食」や「独居」など社会的要因が相互に絡み合っている​。栄養不足や体重減少が続くと筋力や免疫力が低下し、要介護状態や健康悪化のリスクが高まる。このような虚弱(フレイル)を防ぐには、高齢者に適した十分な食事と栄養の確保が重要だ。

フレイル予防の観点から特に重要な栄養素がタンパク質である​。筋肉や臓器の材料となるタンパク質が不足すると、筋肉量や筋力の低下を招き、転倒骨折や寝たきりの一因となる。近年の研究でも、習慣的なタンパク質摂取量が多い高齢者ほどフレイルの有病率が低い傾向が報告されている​。このため、欧米の指針では高齢者は体重1kgあたり1.0~1.2gのタンパク質摂取が推奨され、日本の食事摂取基準(2020年版)でも高齢期は他の世代より目標量が引き上げられている​。例えば体重50kgの高齢者なら1日50~60g(卵8~10個分相当)のタンパク質を摂ることが望ましい計算だ。

具体的には、毎食に肉・魚・卵・大豆製品など良質のタンパク源を取り入れることが勧められる。噛む力や飲み込む力が弱っている場合は、肉を柔らかく煮込む、細かく刻む・とろみをつけるなど調理法を工夫して食べやすくする。歯や口の機能の衰え(オーラルフレイル)が食事量減少の一因となるため、入れ歯の調整や口腔ケアも重要である。最近は介護食や嚥下調整食として、市販でも柔らかく調理済みの冷凍食品や栄養補助食品が充実してきており、そうした商品も上手に活用したい。また、野菜や果物、乳製品などからビタミン・ミネラルもバランスよく摂取し、多様な食品を組み合わせた食事を心がけることが大切だ​。

食事環境も栄養状態に影響する。高齢者が一人で食事をする「孤食」は食欲低下につながりやすいため、可能な限り家族や友人と一緒に食べる機会(共食)を持つことが望ましい。地域によっては高齢者向けのふれあい食事会や配食サービスが提供され、栄養補給と社会交流の場になっている。適切な栄養摂取に運動習慣を組み合わせることで、筋肉や骨を維持し、フレイルを予防する効果が高まる。身近な食事に少し気を配り、タンパク質を意識した食生活を送ることが、健康長寿への第一歩である。高齢者自身や家族も、手軽に実践できる栄養改善の工夫を知っておくとよいだろう。

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