認知症高齢者が行方不明になるケースが年々増加し、社会問題となっている。警察庁のまとめでは、2023年に家族などから捜索願が出された認知症の行方不明者数は前年比330人増の1万9039人で、統計開始以来11年連続で最多を更新した。国内の認知症高齢者は推計600万人を超えており、2025年には約700万人に増える見通しだ。高齢者を狙った特殊詐欺(いわゆるオレオレ詐欺等)の被害も後を絶ず、一人暮らし高齢者の安全確保が重要な課題となっている。こうした中、テクノロジーを活用して高齢者を見守り、事故や犯罪被害から守るサービスが各地で登場している。
位置情報やセンサーを活用した見守りデバイスの普及が進んでいる。例えば札幌市の企業が開発した腕時計型の端末は、体温・心拍数・血中酸素濃度を定期測定し、AIが正常値かどうか判断して異常時には管理者に体調急変を通知する。さらにGPSを搭載しており、入居者が施設から外に出た際の早期発見につなげることができる。自治体によっては、認知症の高齢者に靴やカバンに入れられる小型GPS端末やQRコード付きIDタグを配布し、行方不明時の捜索に役立てている例もある。大手警備会社も、高齢の親を遠隔で見守る民間サービスを展開しており、在宅に人感センサーやドア開閉センサーを設置して生活リズムの異変を検知するとコールセンターに通報、必要に応じて警備員が駆け付ける仕組みを整えている。奈良県発のベンチャー企業は家庭の電力使用データを1分単位で解析し、生活パターンの乱れから認知機能低下の兆候を察知する見守りサービスを開発している。これらの見守り技術により、高齢者が外出先で道に迷ったり、自宅で体調を崩した場合でも、早期発見・対応が可能になりつつある。
防犯面でも、高齢者を守るための工夫がなされている。例えば、自宅の固定電話に自動通話録音機や警告メッセージ再生機能を接続し、詐欺の疑いがある電話を自動で録音・警告する装置が普及し始めた。警察や自治体による無料貸与の取り組みも各地で行われている。また、銀行ATMで高齢者が高額な現金を引き出そうとした際に警報を発するシステムや、AIを活用して詐欺電話の特徴的な話法やキーワードを検出しリアルタイムで注意喚起する実証実験も進められている。こうした技術により、高齢者本人が被害に遭う前に周囲が気づき、未然に犯罪を防止することが可能になりつつある。
見守りや防犯のテクノロジーは、高齢者ができるだけ自立し安心して暮らし続けるための頼もしい味方となる。家族にとっても、離れていても異変を早期に察知できる安心感は大きい。ただし、機器の装着や監視されていることに抵抗感を示す高齢者もおり、プライバシーに配慮した導入と丁寧な説明が欠かせない。行政も地域包括支援センター等を通じて見守りサービスの情報提供や導入支援を行っており、地域の見守りネットワーク作りと併せて、身近なテクノロジーを上手に活用することで「わかりやすく役に立つ」高齢者見守りの仕組みを整えていきたい。