深刻な人手不足が続く介護現場で、ロボット技術やICT(情報通信技術)といった最新テクノロジーの活用が進んでいる。政府全体でも介護分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が掲げられており、テクノロジー導入は介護改革の柱の一つだ。厚生労働省と経済産業省は2024年6月、介護ロボット等の開発・導入を促進するための重点分野を見直し、その名称を従来の「ロボット技術の介護利用」から「介護テクノロジー利用の重点分野」に変更した。介護サービスの質を向上させ、職員の負担を軽減し、高齢者の自立支援につなげることが狙いである。政府は2012年に最初の重点分野を策定して以来、2014年・2017年にも改訂を行うなど技術進歩や現場ニーズに応じた見直しを重ねてきた。今回、約7年ぶりとなる改訂によって、より幅広い「介護テクノロジー」の活用推進へ舵を切った形だ。国は補助金交付など導入支援策にも力を入れており、現場への普及を後押ししている。
今回の改訂では、新たに「機能訓練支援」「食事・栄養管理支援」「認知症の生活支援・ケア支援」の3分野が重点分野に追加された。リハビリテーションで高齢者の身体機能を維持・向上させる訓練支援ロボットや、食事介助や栄養バランス管理をサポートする機器、徘徊や異食など認知症高齢者の行動を見守り安全を確保するシステムなどが念頭に置かれている。これにより重点分野は合計9分野16項目となり、介護施設だけでなく在宅での見守り・コミュニケーション支援なども含め、より包括的な技術開発が促される見込みだ。テクノロジーの活用範囲が広がることで、利用者一人ひとりの状態に合わせたきめ細かなケアや、介護職員の負担軽減につながる革新的なサービスの創出が期待されている。
現場ではすでに様々な介護ロボットが実用化され始めている。例えば、腰に装着して介助者の腰痛リスクを軽減するパワーアシストスーツや、ベッドから車いすへの移乗を支援するロボット、利用者の歩行訓練を補助するロボットなどが開発され、介護施設や在宅介護の現場に導入されつつある。また、入浴介助用のロボットや、自動で排泄物を吸引処理する装置といった介護負担を大幅に減らす機器も登場している。見守りセンサー技術も進歩し、夜間の徘徊や転倒を検知して職員や家族に知らせるIoTセンサーがグループホーム等で活用されている。愛らしいアザラシ型ロボット「パロ」に代表される癒し効果のあるコミュニケーションロボットや、利用者の発話を促す会話支援AIなど、心のケアに資する新しいツールも注目を集める。こうした機器の導入はまだ一部の先進的な事業所に限られるが、今後は順次普及が進むものと見られる。
もっとも、テクノロジーはあくまで介護者をサポートする手段であり、人間ならではの温かいケアに取って代わるものではない。機器の操作習熟やコスト負担といった課題も残る。利用者からは最初、機械相手に戸惑う声も聞かれるが、「使ってみると安心できる」との評価が得られた事例もある。それでも、超高齢社会を支える一助として技術への期待は高い。国の後押しもあり、今後はより多くの介護現場で最新テクノロジーが「わかりやすく役に立つ」形で活用されていくことが見込まれる。介護に携わる人々にとって、新技術は負担軽減とサービス向上の心強い味方となりつつある。