重度要介護高齢者の入所先として希望者が多い公的介護施設「特別養護老人ホーム」(特養)では、入所待機者が全国で約27万5千人(2022年4月時点)に上る​という。特養は社会福祉法人などが運営する公的な介護施設で、所得に応じた利用料減免制度があり低所得でも利用しやすい。重度の要介護高齢者にとって生活の最後の拠り所となる施設だが、定員枠の不足から希望してもすぐには入れないケースが多いのが現状である。待機者のうち、自宅で順番を待っている人は約11万人以上、他の有料老人ホーム等に入居しながら特養の空きを待つ人も約13万人以上いるとされる​。特養に入れず民間の有料ホームや病院で長期療養せざるを得ない場合、費用負担やケア内容の面で妥協を強いられることも多く、家族介護の継続が難しい世帯にとって待機期間は大きな苦悩となっている。

特養待機者問題は、高齢化の進展に伴い2000年代から深刻化した。ピーク時には全国で50万人以上が待機しているとの推計もあったが、2015年の制度改正で原則要介護3以上の重度者に入所対象を限定したことなどにより、待機者数は徐々に減少傾向にある。もちろん地域によっては待機者が少ない例もある。それでもなお約25万人規模が残っている背景には、高齢者人口の増加に施設整備が追いついていないことが挙げられる。自治体や社会福祉法人による特養増設の取り組みは続いているものの、用地確保や建設費、人件費の制約から計画通りに進まない地域も多い。また、ハード(建物やベッド)が増えても肝心の介護人材が不足しており、定員いっぱいまで受け入れできない施設も少なくない。例えば東京都では2023年3月末時点の特養待機者が前年度より32%減の3万6362人となり、待機が大幅に緩和された一方、急速な施設整備に対し「地域によっては過剰な整備になりつつある」との指摘も出ている​。地域差も大きく、都市部では依然として入所待ちが長期化する一方、過疎地域では空床が目立つケースもあり、偏在の是正も課題だ。介護職員の人手不足も深刻で、厚労省推計では介護人材の需要が2023年に約233万人、2040年には約280万人に達すると見込まれている​。現状のままでは介護施設の受け皿拡大にも限界があるため、人材確保策と並行して在宅介護の充実も重要な課題となっている。

待機者問題への対策として、政府は特養の新設を支援するとともに、地域密着型の小規模施設(グループホームや小規模多機能型居宅介護など)の整備を促進している。国や自治体の補助金を投入し、高齢者が住み慣れた地域で必要なケアを受けられる拠点づくりを進めている。また、施設を増やすだけでなく、自宅で暮らし続けたい高齢者を支える訪問介護・看護やデイサービスなど、地域包括ケアシステムの強化も不可欠である。重度でも在宅生活を続けられる環境を整えることで、特養待機の圧力を緩和しつつ、本人のQOL(生活の質)向上にもつながると期待されている。

今年2025年には団塊世代が一斉に75歳以上の後期高齢者となり、本格的な超高齢社会が到来する。特養ホームの待機者問題は徐々に改善されてきたとはいえ、多くの高齢者と家族にとって依然切実な問題である。公的施設の拡充と人材育成、在宅サービスとの連携を図り、必要な人に必要なケアが届く社会の実現が求められている。家族としても、地域のケアマネジャーや行政の相談窓口を活用し、最新の情報を収集しながら、最適な介護環境を選択していきたいところだ。

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