茨城県日立市で介護士が入所者を虐待した事件が発覚した。これは個別の問題だけでなく、全国的にも見逃せない課題を浮き彫りにしている。
この事件は、25歳の介護士、青木宥磨容疑者が85歳の女性入所者の頭を殴り、けがをさせたもの。青木容疑者は警察の取り調べに対して容疑を認めているが、動機などはまだ明らかにされていない。
この事件が露呈するのは、高齢者を取り巻く環境と、介護職の現状、そしてそれをどのように改善していくかという重要な課題だ。
厚生労働省の調査によると、高齢者虐待と認められた件数は、養介護施設従事者によるものが739件、前年度より24.2%増加している。一方、養護者によるものは、16,426件で、前年度より4.9%減少している。
このデータから、養介護施設での虐待件数が増加傾向にあることが読み取れる。虐待を行った介護従事者のうち、81.3%が介護職で、男性が52.2%を占めている。これは介護従事者全体の男性の割合18.8%に比べて、明らかに高い数字である。
これらの統計データから、介護施設における虐待は個々の問題ではなく、システムや環境に根ざした問題であることが示唆される。
介護職は、心身ともに厳しい仕事である。しかし、その重労働とリスクに見合った報酬や待遇、サポート体制が整っていない現実がある。これがストレスやフラストレーションを生み、最終的には虐待という形で表れてしまうのではないか。
今回の茨城の事件も、その一例である可能性が高い。青木容磨容疑者の行動背景には、未だ解明されていない多くの要因があるかもしれない。
国としては、厚労省の調査結果をもとに、介護施設の運営体制の見直し、介護職の待遇改善、教育・トレーニングの充実など、包括的な対策を講じていく必要がある。
虐待は、単に個人の道徳や倫理の問題ではなく、組織としてのマネジメント、社会としてのサポート体制にも関連している。その全体像を把握し、根本からの改善を目指すことが、これからの課題と言えるだろう。