経済産業省の試算によれば、働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」の労働生産性の低下などが原因で、2030年には経済損失が9兆円超に上る見込みだという。高齢化が進む日本では、ビジネスケアラーの数が増加し続け、介護離職者は毎年約10万人に上る。2030年には家族介護者の約4割(約318万人)がビジネスケアラーになると予想される。
2030年における経済損失の内訳は、仕事と介護の両立困難による労働生産性損失額、介護離職による労働損失額、介護離職による育成費用損失額、介護離職による代替人員採用に係るコストが含まれており、合計で9兆1,792億円に達する見通しである。
この問題に対処するためには、ビジネスケアラー問題への対応に当たって、①地域における介護需要の新たな受け皿の整備、②企業における両立支援に向けた取り組みの促進を両輪で進めていく必要がある。
また、家族介護者の介護負担を軽減するためには、介護保険外サービスを含めた地域で高齢者が自立しながら生活できる環境整備が重要である。一定程度の介護保険外サービスの利用意向があるものの、サービスを知らない(約44%)、費用が高い(29.4%)、質に不安がある(約12%)、種類が多くて選べない(8%)といった理由で利用が進んでいないことが調査から明らかになった。
このような背景から、ビジネスケアラー問題への対策が急務となっており、その解決が日本経済の危機を回避するカギを握っている。今後、政府や企業がどのような取り組みを展開していくかが注目される。具体的には、地域における介護サービスの情報提供やサービスの質の向上、費用負担の軽減策などが求められるだろう。
さらに、企業においても、働きながら介護する従業員への支援策の拡充が不可欠である。柔軟な労働時間制度や在宅勤務の導入、介護休暇の取得を容易にする制度改革などが考えられる。
ビジネスケアラー問題の解決に向け、地域や企業が連携し、家族介護者が働き続けられる環境整備に力を入れることが、経済損失の回避や労働力不足の解消につながると期待される。日本の高齢化社会がさらに進行する中で、この問題にどう対処していくかが、国の将来を左右する重要な課題となっている。