2025年4月、仕事と介護の両立支援を強化するため育児・介護休業法の改正法が施行された。高齢化の進展に伴い家族の介護を理由に離職を余儀なくされる人が年間10万人規模に上る現状を踏まえ、企業に対して介護離職防止のための新たな義務が課された形だ。改正法では企業規模にかかわらず全ての企業に以下の3点が義務付けられている。
第一に、従業員が家族の介護に直面した際に、企業が個別に制度を周知し本人の意向を確認することだ。介護休業や介護と仕事の両立支援制度について、対象の従業員一人ひとりに対し会社側から情報提供し、休業取得などの意思を確認することが義務化された。従来は従業員側から申し出がなければ具体的な案内が行われないケースも多かったが、改正により企業側が主体的に働きかける仕組みとなる。
第二に、介護と仕事の両立を支援するための雇用環境整備が企業の義務となった。具体的には、以下のような措置の中から少なくとも一つを講じる必要がある。介護に直面する前の段階から従業員への研修や相談窓口の設置、社内規程整備などによる支援体制づくり、テレワーク制度やフレックス勤務制度の導入など、社員が仕事と介護を両立しやすい柔軟な働き方の環境を整備することが求められている。企業はこれらの措置を講じ、介護による離職者を出さないよう努めなければならない。
第三に、従業員への事前の情報提供が強化された点が挙げられる。改正法では、40歳前後の従業員に対して介護休業制度等の周知を図る措置も企業の努力義務とされた。具体的には、従業員が一定の年齢に達した際に仕事と介護の両立支援制度について説明する機会を設け、将来的に家族の介護が必要になった際に制度を円滑に利用できるよう意識啓発を行うことが推奨されている。こうした早期からの周知により、いざという時に休業制度などを利用しやすくし、結果的に離職防止につなげる狙いだ。
この改正の背景には、高齢化社会における介護離職が深刻な社会問題となっている現状がある。総務省の調査によれば、家族の介護・看護を理由に離職した人は2022年の1年間で約10.6万人に達し、毎年10万人前後で推移している。介護離職は本人のキャリアだけでなく企業にとっても人材流出という損失であり、「介護離職ゼロ」は国の重要目標となっている。改正育児・介護休業法の施行により、企業はこれまで以上に従業員の介護と仕事の両立支援に取り組む必要がある。
働きながら介護する「介護者(ケアラー)」を支える環境整備は、介護に直面する全ての人に関わる課題だ。今回の法改正によって企業の責務が明確化されたことで、職場での支援体制が進み、介護を理由とした退職者の減少が期待されている。国も助成金の創設など企業への支援策を用意しており、官民一体となった介護離職防止への取り組みが今後さらに拡充されていく見通しである。