政府は2024年12月、「認知症施策推進基本計画」を初めて閣議決定した​。この基本計画は同年1月施行の認知症基本法に基づくもので、今後の認知症対策の指針となるものだ。計画の柱として掲げられたのが、認知症になっても希望を持って暮らせる社会を目指す「新しい認知症観」である​。誰もが認知症になる可能性がある時代を踏まえ、認知症になったら何もできないという誤解や偏見を無くし、認知症の人の意思が尊重される共生社会の実現を目指す内容だ​。

この計画策定の背景には、認知症高齢者の急増がある。厚生労働省の推計によれば、2022年時点で認知症の高齢者は約443万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者は約559万人にのぼり、両者を合わせると1000万人を超えている​。高齢者の約5人に1人が認知症もしくは予備群という現実から、認知症は誰にとっても「自分ごと」として備えるべき課題となっている。

基本計画には今後5年間で重点的に取り組む12項目の施策が盛り込まれた​。例えば、認知症の人が住み慣れた地域で社会参加できる環境づくりや、医療・介護サービス提供体制の整備、認知症予防や治療法に関する研究の推進などである。また、第一期計画(2024〜2029年度)の目標として、「国民一人ひとりが新しい認知症観を理解していること」「認知症の人の意思が尊重されていること」など4つの指標を掲げ、進捗状況を評価していく​。

今後、国の基本計画を受けて各自治体でも地域版の計画策定が求められる。計画策定には認知症当事者やその家族の声も反映されており​、現場の声に根ざした施策が展開される見通しだ。政府はこの基本計画に基づき、認知症になっても安心して暮らせる共生社会の実現に向けて、本格的な施策を進めていく考えである。

なお、国はすでに認知症予防や本人支援の具体策も打ち出し始めている。例えば2023年にはアルツハイマー型認知症の進行を緩やかにする新薬が国内で承認されるなど(※後述)、医療面での進展もみられる。社会全体で「新しい認知症観」を共有し、偏見のない支え合いと最新の知見を取り入れた対策を両輪で進めることが求められている。

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