排泄ケアは介護の現場において最もデリケートかつ負担の大きい作業の一つである。特に認知症の高齢者に対する排泄介助は、心理的なケアと身体的な対応の両面が求められる。厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(令和4年)によると、要介護4以上の利用者のうち、排泄に何らかの介助が必要な割合は78.2%にのぼる。

認知症の進行により、排泄のタイミングが分からなくなったり、トイレの場所が分からず失禁してしまうことがある。こうした状態に対応するには、「できる限り自立を促し、失敗を責めない」姿勢が重要である。日本老年医学会のガイドラインでは、認知症高齢者の排泄支援において、日課としてのトイレ誘導と、環境整備が有効であるとされている。

まず、トイレの場所を分かりやすくするために、ドアに「トイレ」と大きく書いた表示を貼る、足元に誘導マットを敷く、便座の色を周囲とコントラストをつけるといった工夫が挙げられる。夜間は足元灯や自動点灯の照明を設置することで、トイレまでの移動を安全に保つことができる。

また、排泄のタイミングに合わせた声かけも効果的である。食後や起床時、就寝前などに「トイレに行きましょうか」と優しく声をかけることで、本人の意欲を損なわずに誘導できる。失敗したときも叱らず、責めないことが基本である。本人の羞恥心に配慮しながら、「今度は間に合うように一緒に頑張ろうね」と前向きな言葉をかけることが、信頼関係の構築につながる。

おむつを使用する場合でも、過度に依存せず、自立排泄を可能な範囲で支える姿勢が求められる。厚生労働省の「高齢者の自立支援に資する排泄支援の在り方に関する調査研究」(令和3年度)によれば、トイレ誘導を継続的に行うことで、おむつからの脱却に成功したケースが一定数報告されている。

排泄記録表を活用し、排尿・排便の時間や状態を記録することで、本人の排泄パターンが可視化され、適切なタイミングでの誘導がしやすくなる。これにより、介護者の負担軽減と本人の自立促進の両立が図れる。

認知症高齢者の場合、「便をいじる」「トイレ以外の場所で排泄してしまう」といった行動も見られるが、これらは周囲の環境や不安感が原因であることが多い。トイレの場所が分からずパニックになっての行動であることもあるため、まずは安心できる環境づくりと、本人の気持ちに寄り添う対応が欠かせない。

排泄ケアは、身体介助であると同時に「尊厳のケア」でもある。失敗を恐れて閉じこもってしまう高齢者に対し、本人ができることを少しでも維持できるように支援する姿勢が、QOL(生活の質)の向上につながる。

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