高齢者向けの介護食品市場が年々拡大している。高齢者人口の増加に加え、栄養管理の重要性への認識向上や、介護を支える人手不足の中で調理負担を減らすニーズが高まったことが背景にある。要介護者向けのミールキットややわらか食、経口栄養補助食品など、調理済み・加工済みの介護食の利用が施設・在宅問わず増えているという。
特に介護施設では、人件費や光熱費の高騰もあり「調理をアウトソーシングした方が安上がり」という動きが強まっている。厨房で一から手作りするより、専門業者から届く調理済みのやわらかおかずやとろみ付き食品を活用する施設が増え、結果として介護食市場の伸びに拍車をかけている。人手不足で調理スタッフを十分確保できない施設にとっても、外部の介護食に頼るメリットは大きい。一方、在宅向けの需要も旺盛だ。コロナ禍で外出自粛を強いられた際に「巣ごもりフレイル」(自宅に閉じこもることで筋力や栄養状態が低下する現象)が問題化し、高齢者の栄養摂取の大切さが改めて認識されたことが追い風となった。要介護高齢者のみならず独居の高齢者などにも、手軽に栄養が摂れる介護食ニーズが広がっている。
介護食市場の主なカテゴリとしては、大きく「流動食」「やわらか食」「栄養補給食品」に分けられる。流動食とは飲み込みやすいよう液状・ゼリー状にした食品で、経口栄養補助飲料なども含まれる。やわらか食は、通常の食事の形態を保ちつつ軟らかく加工したもので、噛む力や嚥下力が衰えた高齢者でも安全に食べられるのが特長だ。栄養補給食品は、食事だけでは不足しがちな栄養素(タンパク質やビタミン等)を効率よく補えるよう開発された食品群を指す。これらの商品が高齢者施設向け・在宅向けそれぞれに多彩に展開され、市場を押し上げている。
近年のトレンドとして、高タンパク・高エネルギーの介護食品が充実してきた点が挙げられる。フレイル予防やサルコペニア(筋肉減少症)対策の観点から、タンパク質をしっかり摂れる介護食へのニーズが高まっている。実際、市販の経口栄養ドリンクでは「明治メイバランス」(明治)や「エンジョイクリミール」(森永乳業クリニコ)といった商品が手軽に栄養を摂取する手段として売上を伸ばしているようだ。これらは牛乳パックほどの容器に高栄養流動食が入っており、食事が十分とれない高齢者でも飲むだけでエネルギーやタンパク質、ビタミン類を補給できる優れものだ。在宅向けではドラッグストア店頭だけでなく通販で購入する人も増えており、高齢者以外の一般の健康志向層にもユーザーが広がっている。
また、「やわらか食」分野では見た目にも美味しそうな冷凍惣菜が豊富になってきた。噛む力が弱くても舌で潰せるほど軟らかいが、見た目は普通の煮物や焼き魚と変わらない──そんな配慮の行き届いた調理済み食が人気だ。例えば、人参や大根など硬い野菜も特殊な加熱技術で柔らかく仕上げ、形は崩さず出汁の風味もしっかり染み込ませた総菜がある。利用者からは「普通の食事と同じ見た目で嬉しい」「噛まなくても食べられるので安心」という声が聞かれる。食は生活の楽しみでもあり、介護食でも味や見た目の満足度が重視されるようになっている。
介護食市場は今後も拡大が見込まれ、高齢者施設の増加や在宅介護へのシフトに伴い需要は一段と高まる見通しだ。各食品メーカーもこの市場に積極参入しており、新商品の開発競争が続いている。最近では非常食と介護食を兼ねた保存食や、楽に調理できるレトルト介護食なども登場している。
介護食の充実は、高齢者のQOL(生活の質)向上に直結する。十分な栄養を摂り、食べる楽しみを維持できれば、健康寿命の延伸にもつながるだろう。一方で塩分・糖分の過剰摂取に配慮した商品開発や、嚥下障害への対応食品のさらなる工夫など課題もある。今後ますます進む高齢社会において、介護食は高齢者と介護者を支える心強い味方となりそうだ。