高齢者にとって外出は、単に体を動かすだけでなく、社会とのつながりや生活の質を保つための重要な要素である。内閣府「令和5年版高齢社会白書」によると、80歳以上の高齢者のうち、「ほとんど外出しない」と答えた人の割合は14.5%にのぼる。高齢になるにつれて移動が困難になることは避けられないが、それでもできる限り外出を続けることが、健康寿命の延伸に大きく関わっている。
実際、厚生労働省「健康日本21(第二次)」中間評価報告書(令和3年)では、高齢者が日常的に外出し、社会的な活動に参加している方が、要介護状態になるリスクが低いと報告されている。歩くことそのものが運動になるだけでなく、人との会話や景色の変化が精神面でも良い影響を与えるためである。
しかし、移動手段の確保は簡単ではない。自家用車を手放した高齢者にとっては、公共交通機関の利便性が鍵を握る。国土交通省「交通政策白書」(令和5年)によれば、全国のバス路線のうち約35%が赤字で廃止・縮小の可能性があるとされており、特に地方では高齢者の“交通弱者化”が進行している。
このような背景から、各自治体では高齢者向けの移動支援サービスが充実し始めている。たとえば、高齢者向けに運賃割引を提供する「福祉乗車証」や「敬老パス」の制度は多くの市区町村で導入されている。また、予約制でドア・ツー・ドアの移動を支援する「デマンド交通」や「乗合タクシー」なども、通院や買い物支援に活用されている。
さらに、地域によってはNPOやボランティアによる送迎支援が存在する。買い物支援や通院付き添いなど、単なる移動以上のサポートを受けられる仕組みも整いつつある。内閣府「地域共生社会の実現に向けた検討会報告書」(令和4年)では、こうした民間と自治体の協働が、高齢者の社会参加を支える有効な手段と評価されている。
また、外出先のバリアフリー環境も重要である。駅や商業施設、公共施設におけるエレベーターやスロープの設置状況は改善が進んでおり、国土交通省の「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(令和3年)では、2025年度までに全ての主要駅に段差解消を行うことが目標として掲げられている。
一方で、外出先にトイレが少ない、長時間の移動がつらいといった声も根強い。これに対して、短時間で立ち寄れる「通いの場」や「地域サロン」などの拠点が全国で増えており、買い物ついでの休憩や交流の場として機能している。厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」に基づき、各自治体が設置・運営するこうした拠点は、社会的孤立の防止にもつながる。
高齢者の外出を支援することは、単なる交通施策にとどまらず、健康寿命の延伸、認知症予防、孤立防止といった多面的な効果をもたらす。特にこれからの超高齢社会において、外に出ることを支える仕組みを地域全体で考えることが求められている。
その第一歩として、家族や地域の人々が「一緒に出かけよう」と声をかけること、そして自治体が移動支援制度の存在を丁寧に伝えることが大切である。高齢者の「行けない」を「行ってみよう」に変えるために、制度と社会の両面から後押しする仕組みづくりが、今まさに求められている。