自分が亡くなった後のことや最期の迎え方をあらかじめ考え準備しておく「終活」が高齢者の間で広がっている。エンディングノートを書いて延命治療の希望や葬儀・埋葬の方法、残された家族へのメッセージなどを整理したり、身の回りの品を生前に片付けておく人も増えている。終活は決して縁起の悪いことではなく、いざという時に備え前向きに人生の締めくくりを設計する行為だ。本人の意思を明確にしておくことで、家族が看取りや遺産整理に際して迷わずに済み、残される側にとっても大きな助けとなる。実際、親が終活を行っており希望が示されていたことで、最期のケアにおいて家族が心の準備をもって対応できたという例は多い。
医療やケアの面でも、終末期の事前準備は重要視されている。厚労省は2018年より毎年11月30日を「人生会議の日」と定め、家族や医療・介護スタッフと人生の最終段階について話し合っておくよう呼びかけている。いわゆるACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)で、どこでどのような医療・ケアを希望するかを前もって共有しておく取り組みだ。これにより、急変時でも本人の意思に沿った対応を取りやすくなる。例えば「延命措置は希望しない」「苦痛を和らげるケアを優先してほしい」など本人の価値観を家族と担当者が理解していれば、緊急時の判断もスムーズになる。
緩和ケア病棟(ホスピス)や在宅緩和ケアの利用も、生前の意思表示がカギとなる。医療機関の緩和ケア病床は限られるため、早めに情報収集し主治医や地域包括支援センターに相談しておくと希望に沿った看取り場所を確保しやすい。在宅での看取りを希望する場合は、対応可能な訪問診療医や看護師チームと契約しておく必要がある。また、身寄りのない高齢者の場合、万一の入院や葬儀・埋葬手続きを代行する「身元保証サービス」事業者の活用など、周到な準備が欠かせない。
人生の最終段階は誰にでも必ず訪れる。自分らしい最期を迎えるために、早いうちから家族や医療者と意思疎通を図っておくことが大切だ。終活や人生会議は決して特別なことではなく、人生を自分でデザインする前向きな行動である。元気なうちに「わかりやすく役に立つ」情報を集め、信頼できる家族や専門職と話し合いを重ねておけば、最期の時を安心して迎えることができるだろう。