厚生労働省は2025年春、有料老人ホーム(民間の介護付き高齢者施設)をめぐるサービス提供の課題解消に向けた新たな有識者検討会を立ち上げた​。この検討会(「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」)は、老人ホームでの入居者「囲い込み」や過剰サービス提供の是正、高齢者住宅紹介業者の問題などを議題とする予定である​。こうした方針は、2025年3月に開催された社会保障審議会介護保険部会で明らかにされた​。背景には、一部施設で入居者に必要以上の介護サービスを提供し、自社グループのサービスに囲い込む不適切な事例が後を絶たない現状がある。囲い込みとは、利用者を特定の事業者のサービスだけで完結させ、他の事業者を利用できない状態にすることである。例えば、本来は見守り程度で足りる入居者に対し、過剰な安否確認や生活援助を上乗せして契約させることでサービス利用料をかさ増しし、入居者の経済的負担を不当に増やすケースが報告されている。特に「住宅型有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」などでは、併設する訪問介護事業所を使って過剰サービスを提供する囲い込みが問題化している。介護保険制度では利用者が必要なサービスを自由に選択できる建前だが、囲い込みによって利用者の選択の幅が奪われ、不要な負担や心身機能の低下を招く恐れがあると指摘されている。

また、老人ホームへの入居希望者を施設に仲介する「入居紹介ビジネス」の在り方も問われている。高齢者向け住宅の紹介事業者が、入居希望者の要介護度や医療ニーズに応じて施設側から高額な紹介手数料を受け取る慣行が問題視されている​。紹介料は一件あたり数十万円から場合によっては百万円を超えることもあり、結果的にそのコストが利用者側に跳ね返るのではないかとの懸念がある。情報格差がある中で家族が頼れるのは紹介業者である場合も多く、国は不透明な紹介料の実態を把握した上で必要な規制策を検討する考えである。具体的には、紹介料への上限制の導入や情報開示の義務付け、悪質業者への指導ガイドライン策定などが視野に入る。

今回の検討会では、囲い込みや過剰サービスの是正策に加え、ケアマネジャー(介護支援専門員)の中立性確保も論点となる見通しである。施設に常勤するケアマネジャーが自施設のサービスばかりを優先的に組み込めば、利用者は他の選択肢を知らされないまま囲い込まれてしまう懸念がある。このため、地域のケアマネジャー間で情報共有を図り、第三者によるケアプラン点検を強化するなど、公平・公正なサービス選択を担保する方策が議論される見込みだ。実際、介護保険制度では過去にも同一建物での訪問介護サービス提供に報酬減算を適用する(いわゆる「同一建物減算」)など、囲い込み防止策が講じられてきた経緯がある。しかし、それでもなお現場で囲い込みの弊害が残ることから、改めて抜本的な対策が求められている。

厚労省は2025年夏までに検討会の報告書を取りまとめ、そこに盛り込まれた内容を2027年度の介護保険制度改正や介護報酬改定の議論に反映させる方針である​。利用者本位の介護サービスを実現するためには、公正なルール整備と監視体制の強化が不可欠だ。不適切な囲い込みによって利用者や家族が不利益を被らないよう、国は業界団体とも連携して是正策を進める構えである。介護現場からは「必要なサービスだけを安心して利用できる当たり前の環境を取り戻したい」との声も上がっている。施設選びに悩む家族にとっても、信頼できる情報を複数集め、疑問があれば地域包括支援センターなど公的機関に相談することが大切である。今回の取り組みを契機に、誰もがわかりやすく安心して介護サービスを利用できる環境づくりが一層進むことに期待したい。

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