深刻な人手不足や重労働が続く介護現場を支える切り札として、介護ロボットやICT(情報通信技術)の活用が進み始めている。政府はテクノロジーの力で介護サービスの質向上と介護職員の負担軽減を図る方針を掲げており、2025年4月からは「介護テクノロジー」として重点開発・導入すべき分野を従来の6分野13項目から9分野16項目へ拡大することを決めた。新たに「機能訓練支援」「食事・栄養管理支援」「認知症の生活・ケア支援」の3分野が追加され、排泄予測デバイスや摂食嚥下を助ける機器、認知症高齢者をサポートするシステムなども開発支援や導入補助の対象となる。政府はこのようにロボット技術とICTの両輪で介護現場の課題解決を推進する方針だ。
介護ロボットの代表例としては、移乗支援ロボットや見守りセンサー機器が挙げられる。移乗支援ロボットは、要介護者をベッドから車椅子へ移す際などに持ち上げ動作を補助する機械で、介護職員の腰痛リスクを大幅に減らす効果がある。装着型のパワースーツを着用し、モーターの力で持ち上げをアシストするタイプが既に実用化されており、多くの施設で導入が進んでいる。また認知症高齢者の見守りには、天井やベッド周辺に設置したセンサーで人の動きを検知し、転倒や徘徊の兆候があればスタッフに通知するシステムが活用されている。夜間の巡回を効率化し、事故防止に一定の成果を上げているという報告もある。
ICTの分野では、介護記録の電子化やケアプラン作成支援ソフトの普及が著しい。タブレット端末でバイタル測定値やケア内容を入力すれば、その情報がクラウドで共有され他のスタッフも即時閲覧できる仕組みが整いつつある。これにより紙の記録を書いて回覧する手間が省け、スタッフ間の情報共有も円滑になる利点がある。またAIを活用したケアプラン作成支援では、利用者の心身の状態データから最適なサービス組み合わせを提案するツールが登場している。経験の浅いケアマネジャーでも見落としなくプラン策定できるよう支援し、質のばらつきを減らす効果が期待される。
国は介護ロボット等の導入に対し補助金を用意し、中小規模の事業者でも手が届くよう支援している。また重点分野に該当する機器であれば開発企業への助成も手厚く、ニーズの高いロボットが市場に出やすい環境を整えている。例えば、排泄を予知して利用者や介護者に知らせる「排泄予測デバイス」は高齢者の尊厳保持とおむつ交換の負担軽減に画期的とされ、重点開発項目に加えられた。介護職員からは「おむつ交換のタイミングが分かりやすくなり、夜勤が楽になった」との声もあるという。
一方で、テクノロジー導入には課題も伴う。機器の購入費や維持費がかさむこと、使いこなすための職員研修が必要なこと、機械では代替しきれない「人のぬくもり」の重要性などだ。センサーが異常を検知しても最終的には人間が駆け付けなければならず、人員削減の決定打にはなりにくいとの指摘もある。また高齢の利用者の中には機械に抵抗感を示す人もおり、「知らない機械があると落ち着かない」とカメラやセンサーを嫌がるケースもある。それでも、現場の負担軽減や効率化というメリットは無視できず、少しずつ理解を得ながら導入を進める工夫が求められる。
現場の声としては「ロボットやICTはあくまで補助であり、人間のケアの質を高めるために使うもの」という意見が多い。テクノロジーを導入することでルーティン業務の手間が省け、その分利用者と向き合う時間が増えれば本末転倒ではなく大きなプラスとなる。例えば見守りシステムのおかげで夜間にまとまった休憩が取れるようになり、日中に利用者に優しく接する余裕が生まれた、といった好事例も報告されている。
介護ロボット・ICTの活用はまだ始まったばかりだが、その可能性は大きい。超高齢社会を支える担い手不足という課題に対し、人とテクノロジーの協働で挑む姿勢が求められている。国の後押しも追い風に、現場発の創意工夫で日本の介護が直面する困難を乗り越えていくことが期待される。