高齢者の健康維持において、「食べること」は欠かせない要素である。ところが、加齢によって噛む力や飲み込む力が衰えると、食事が苦痛となり、やがて栄養不良やフレイル、さらには要介護状態を招くこともある。

厚生労働省の資料によると65歳以上の高齢者のうち、約13%がBMI20未満の低栄養状態にあるとされる。特に一人暮らしの高齢者では、食事への意欲が低下しやすく、栄養バランスが偏る傾向がある。

こうした状況を改善するには、噛みやすく・飲み込みやすく・食べたくなる調理工夫が求められる。たとえば、肉や野菜は煮る・蒸す・すりつぶすなどして柔らかく仕上げる。鶏そぼろや豆腐ハンバーグ、かぼちゃの煮物など、咀嚼力が弱くても食べやすいメニューが適している。

味付けも工夫したい。塩分控えめを意識しすぎて味が薄くなると、食欲をそそらない。だしや香味野菜を使い、風味で満足感を得られるようにすることが重要である。カレー粉やレモン汁、生姜などもアクセントとして活用するとよい。

見た目にも配慮することが望ましい。柔らか食やミキサー食になっても、色合いや盛り付けを工夫することで、視覚的な食欲が刺激される。茶碗蒸しやムース状の料理でも、彩りのよい具材を添えることで「おいしそう」と感じてもらえる。

また、高齢者の食事には「誰かと一緒に食べる」ことも大切な要素となる。内閣府「令和5年版高齢社会白書」では、共食(きょうしょく)によって栄養摂取の改善や生活の質の向上が見られると報告されている。家族と同居していない高齢者には、地域のサロンやデイサービスでの食事会の活用も勧めたい。

さらに、食事環境の整備も忘れてはならない。椅子やテーブルの高さ、照明、温度、食器の扱いやすさなど、食事に集中できる環境を整えることで、食事時間が楽しい時間になる。体調に波がある高齢者には、少量を複数回に分けて提供する「分食」や、間食を活用してカロリーを補う方法も効果的である。

高齢者の食事づくりは、単なる栄養補給ではなく「食べる力」を引き出し、「生きる力」を育む行為である。工夫次第で食事が楽しくなり、健康を支える大きな柱となる。

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